Hitz技報第84巻第1号

当社は、これまでに複数のセンサーの挙動から数分~数十分後に燃焼悪化に陥る可能性を予測し、燃焼悪化を避ける追加制御を行うAIとして「燃焼状態予測システム」を開発してきた。今回、さらなる安定燃焼を目的として、このAIモデルの精度を向上させるとともに、ごみ層差圧安定化モデル(燃焼空気とごみ層差圧の関係性に異常が発生した際にごみ送り制御を補正するモデル)、動的状態予測モデル(直近数十分間の炉内の燃焼動画から5分後の炉内画像を予測するモデル)の2つのモデルを追加した。
これら3つのモデルを統合したAIモデルを用いて実機で長期間の実証試験を行った結果、従来のAIモデルよりも良好な燃焼状態を維持できることがわかった。また、自動燃焼制御のみで制御する場合と比較して、燃焼悪化時間が58 %低減し、手動介入回数も86%低減した。

キーワード
#自動燃焼制御 #AI #安定操炉 #燃焼悪化低減 #手動介入低減 #省力化
SDGsに貢献する技術
本稿で紹介した技術により、ごみ焼却発電施設のさらなる安定操炉の実現、運転管理の省力化に貢献できることを確認した。
文責者
伊瀬顕史
共同執筆者
西原智佳子、小貫由樹雄、渡邊剛、本山真史、重政祥子

当社は、京都市南部クリーンセンターの協力を得てごみ焼却発電施設の安定運転の向上を目的に重回帰分析法を活用した過熱器出口蒸気温度制御を開発した。
本開発では、投入ごみの発熱量変動に起因する燃焼ガスと蒸気変動の関連性に着目し、時間経過や操作、外乱などの影響因子を配慮したデータ駆動型の予測モデル式を確立し、過熱器出口蒸気温度制御へ適用した。その結果、重回帰分析法に2分後予測値を活用したフィードフォワード制御を導入することで、高温高圧化に対応した過熱器出口蒸気温度制御の制御性が向上し、燃焼状態とタービン発電電力量が安定化した。また、最も高温となる3rd過熱器管の腐食、減肉量の低減への効果もある。これは、ごみ焼却発電施設の安定化につながり、安定操炉の継続は機器の劣化や損傷が抑制されるため設備の延命化をもたらす。また、AIやICTを活用した自動運転による省力化・人員ミニマム化、DCS手動操作最小化に貢献する。

キーワード
#ボイラ #過熱器 #蒸気温度 #予測値
SDGsに貢献する技術
発電の安定化により、「目標7手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」に貢献できる。
文責者
新井忠幸
共同執筆者
佐藤拓朗、白石裕司、土佐美幸

当社はし尿処理における環境負荷の低減、コスト低減を目的に技術開発しており、し尿処理施設における、前脱水下水道放流方式に適した亜硝酸化脱窒素処理技術を開発した。今回、実証試験でその効果を明らかにしたので、その結果を報告する。
実証試験を通して、硝化槽のアンモニア濃度を制御することにより亜硝酸化率を概ね80%以上に維持できることを明らかにした。また、試験装置へのし尿処理施設の前脱水ろ液(実液)の投入量を調整(2.0~4.5m3/日)することで、窒素投入負荷を3段階変更し、各負荷での運転状況を評価した。高負荷時に、平均0.21kg-N/kg-SS・日-1の窒素投入負荷で運転したところ、標準負荷および低負荷時と同様に下水排除基準以下である処理水質T-N150mg/L以下の運転を安定的に継続した。
8ヶ月にわたる実証試験において取得したデータは、一般財団法人日本環境衛生センターにより検証され、当社は2022年10月に性能調査報告書を受領した。

キーワード
#し尿処理 #亜硝酸化技術 #前脱水 #下水道放流
SDGsに貢献する技術
本技術は必要酸素量および薬品使用量を低減でき、環境負荷低減可能な技術である。また、本技術を採用することでし尿処理施設と公共下水道を合理的に連携ができ、地域循環社会の形成への貢献が可能となる
文責者
田邊佑輔
共同執筆者
館野覚俊

鋼橋架設における部材接合では高力ボルトが数多く使用されており、その摩擦締結の管理として検査員が本締前にボルトにマーキングを行った状態から目視にて判定する手法が一般的に用いられている。本開発では、多量に使用される高力ボルトの検査漏れの削減を目的に、複合現実デバイスやタブレット端末で撮影した映像を用いた高力ボルト締付状態判定システムを構築した。
本システムでは、物体検出技術であるYOLOを用いて高力ボルトを抽出し、深層距離学習により正常状態と異なる度合いを判別した。また、撮影映像に対してラプラシアンフィルタを適用して画像のブレを計算し、ブレが大きい画像を判定対象としないことで、撮影時にカメラが揺れたとしても、システムの誤作動とはならず、検査できるようにした。実物の架設桁を用いた運用試験を行った結果、精度良く締付状態を判定できることを確認した。

キーワード
#高力ボルト #物体検出 #深層距離学習 #複合現実デバイス #タブレット
SDGsに貢献する技術
本稿で紹介した技術を拡張することでインフラ整備における「検査漏れの低減」や「省人化」に貢献できることを確認した。
文責者
岡村敬
共同執筆者
和田貴裕、三宅寿英

当社と株式会社ニチゾウテックは、多管式熱交換器における管端溶接部のフェーズドアレイ超音波探傷検査システムを開発し実機検査に適用してきた。本システムはAI技術である深層学習を用いて、管端溶接部に発生した有害な欠陥を精度高く検出する。これまでに5万箇所を超える管端溶接部の検査を行い、有用な検査手法としてユーザーに認知されてきた。本システムは画像化されたデータを用いて欠陥の有無を判定する特徴を有するが、画像中の探傷範囲を上手く抽出できないことや欠陥ではない反射エコーを過剰に検出することがあった。そこで、探傷範囲の抽出方法を改善し、新たなAI技術を活用することによって問題点を解決した。従来以上に高精度な検査が可能となり、様々な多管式熱交換器へ検査サービスを適用できるようになった。

キーワード
#熱交換器 #フェーズドアレイ探傷 #Deep Learning #Semantic Segmentation #Deep Metric Learning
SDGsに貢献する技術
多管式熱交換器の管端溶接部におけるPAUTにAI技術を適用することで、検査時間の短縮による生産性向上と検査員の作業負荷軽減を実現し、SDGs目標の「8.働きがいも経済成長も」に貢献する。
文責者
片山猛
共同執筆者
篠田薫、竹中俊哉、安部正光、井岡良太、和田貴裕、服部洋(株式会社ニチゾウテック)

大型鋼構造物の製造において、溶接工程の高効率化は、生産性を高めるために必要である。開先角度をほぼ0°とし、初層から最終層までを一層一パスで施工する極狭開先サブマージアーク溶接は溶接効率の大幅な改善が期待できるプロセスである。しかしながら、極狭開先溶接は通常の開先溶接と比較して、融合不良やスラグ巻込みといった溶接欠陥が生じやすく、実用化された例は少ない。そこで当社は、そのような溶接欠陥が生じない極狭開先溶接技術を開発することにした。
まず、デジタル波形制御電源を用いて、欠陥の生じない溶接条件範囲を明らかにし、次に、統計モデルと最適化手法を用いて、インプロセスで溶接条件を自動選定するプログラムを開発した。最後に、溶接品質を確認するため、圧力容器の一般的な材質である板厚120mmの厚板試験体(21/4Cr-1Mo鋼)に対し開発した技術を適用した。その結果、十分な品質が得られ、実用化できることが分かった。

キーワード
#サブマージアーク溶接 #極狭開先溶接 #融合不良防止 #最適化手法
SDGsに貢献する技術
本技術は高効率な溶接法と高品質な製品を提供し、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献する。
文責者
阿部洋平
共同執筆者
藤本貴大、中谷光良、中野真克、安部正光、小林優一、田中学(大阪大学)、茂田正哉(東北大学)

日立造船は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究(バージ型)」として、北九州沖に3MWバージ型浮体式洋上風力発電設備を設置し、2019年より実証運転を行っている。本実証運転中にダイナミックケーブルに生物が付着し、その影響でダイナミックケーブルが沈下する事象が発生した。
本報では、ブイの追加によるダイナミックケーブルの復旧工事、付着生物量の調査結果および維持管理への取組について報告する。付着生物量の調査で、付着の厚さと水深、重量と水深に関する経年変化のデータを整理した結果、水深と付着生物量との関係が顕著であった。また、維持管理のためダイナミックケーブルの深度のモニタリングに取組み、比較的安価な装置で遠隔モニタリングが可能であることを実証できた。さらに、ROV(Remotely Operated Vehicle)を用いた付着生物除去にも取組み、将来の実用性について検証を行った。

キーワード
#浮体式洋上風力発電設備 #ダイナミックケーブル #付着生物 #遠隔モニタリング
文責者
大窪慈生
共同執筆者
三谷俊輔、東谷修、新里英幸

[ 短報 ]

当社では、ごみ焼却プラントのデータを活用したサービスとして、データ解析、予知保全、遠隔運転やAI自動運転などを展開している。長期運営を行っているプラントにおいても、継続的に使用可能なアーキテクチャとセキュリティ機能を持つマルチプラントICT共通プラットフォーム(以下、本プラットフォーム)を構築した。

キーワード
#遠隔監視 #遠隔運転 #長期運営

日立造船グループのHitachi Zosen Inova AG(日立造船イノバ、以下、HZI)は、発酵槽性能モニタリング(DPM:Digester Performance Monitoring)を開発した。現在、HZIが運営する乾式メタン発酵プラント(Kompogas®プラント)のメタン発酵槽に試験導入し、2024年の商品化をめざして、発酵悪化の警報検証と全体的なシステムチェックを行っている。
スウェーデンのヨンショーピング市にあるKompogas®プラントは、地域の有機性廃棄物から乾式メタン発酵によりバイオガスを生成し、さらに精製することで純度を高めたバイオメタンを合成天然ガス(CNG)自動車の燃料として販売するなど、利活用している施設である。

キーワード
#バイオガス #データモニタリング #遠隔監視 #異常検知 #AI

日立造船グループのHitachi Zosen Inova Schmack GmbH(日立造船イノバシュマック、以下、HZI Schmack)は、スイスの電力会社Regiowerk Limeco社(以下、Limeco社)が所有するごみ焼却発電と下水処理の複合施設内に、産業用Power to Gas(以下、PtG)プラントを完成させた。HZI Schmack は、バイオガス事業を展開しており、ごみ焼却発電やバイオガスプラントの設計、建設、保守などを手がけるHitachi Zosen Inova AG(以下、HZI)の子会社である。本PtGプラントでは、生物反応により水素と二酸化炭素から高純度のメタンガスを生成する。Limeco社の施設は、チューリッヒ州ディーティコン市にあり、PtGプラントで生成したメタンガスを地域のガス供給網へ供給している。

キーワード
#バイオメタネーション #Power to Gas(PtG)

水電解装置は再生可能エネルギー電力から水素を製造することで、多様な二酸化炭素排出源のカーボンニュートラル(CN)を実現できる装置である。そのため将来の脱炭素化社会実現に向けて、装置の大型化やコストダウン(CD)、高効率化が求められている。
日立造船は国内唯一のメガワット(MW)級固体高分子(PEM)型水電解装置メーカーである。装置の大型化やコストダウンを加速するため、2021年度からグリーンイノベーション(GI)基金事業に参画し、国内最大となる6MW級モジュール式PEM型水電解装置の開発および製造を担当している。同事業は山梨県、東京電力、東レを幹事企業に据え、水電解装置の大型化や工場熱需要の脱炭素化をテーマとしている。

キーワード
#固体高分子型水電解装置 #グリーンイノベーション基金事業 #脱炭素化 #モジュール化 #コストダウン
SDGsに貢献する技術
大型、高効率、低コストなPEM型水電解装置の販売によりCNの効率を向上させ、各企業のCN導入に向けた障壁を緩和させる。

国内の下水道分野では、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で208万t-CO2の削減が求められている。日立造船は、ストーカ式ごみ焼却発電技術を応用し、ストーカ式下水汚泥焼却発電技術を開発した。脱水汚泥10~15t/日のストーカ式下水汚泥焼却炉の実証試験により、補助燃料なしでN2O排出量を0.01kg/t-DS以下にできることを確認した。また、ストーカ式下水汚泥焼却発電システムの試算から、汚泥焼却の温室効果ガス排出量をマイナスにできることを確認した。

キーワード
#下水汚泥 #温室効果ガス #N2O #焼却
SDGsに貢献する技術
ストーカ式下水汚泥焼却発電システムは、下水道事業のSDGsに大きく貢献できる技術である。

当社は石油精製や石油化学プラント内にあるプロセス機器のメンテナンスサービス(検査、補修、取替など)を顧客へ提供している。高品質な補修サービスの提供に加え、補修の工期短縮や低コスト化、補修によるプロセス機器の延命化などが求められる。
これら顧客ニーズに応じたメンテナンスメニューを拡大するため、大型プロセス機器の内面を自動補修する手法とテンパービード法を用いて溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、以下、PWHT)を省略する手法を確立させたので、その概要を紹介する。

キーワード
#自動補修装置 #肉盛溶接 #PWHT省略
SDGsに貢献する技術
石油、天然ガス等の化石燃料資源を扱うプラントに対して適切な保全計画を基にメンテナンスを行うことでエネルギー資源の無駄を抑制し、持続可能なインフラや産業を目指すSDGs目標の「9.産業と技術革新の基盤を作ろう」に貢献する。

日立造船マリンエンジンは、2022年4月に舶用エンジンの性能解析や船速・燃費などの運航データを可視化し、データ解析業務を支援するウェブアプリケーションサービスHiZAS®VDA(呼称:ハイザスVDA、VDA:Vessel Data Analysis)をリリースした。さらに、HiZAS®VDAの新機能として、舶用エンジンのピストン画像を元にシリンダコンディションを自動で判定する「シリンダコンディション画像判定AI」を開発し、2023年6月にリリースした。

キーワード
#AI #自動 #画像 #ウェブアプリケーション #トラブル #船舶 #エンジン
SDGsに貢献する技術
点検の省力化やトラブルの未然防止により、船舶の最適運航に貢献すると共に、今後の燃料転換に伴うシリンダコンディションリスクの最小化に寄与する重要技術であると考える。

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