Hitz技報第83巻第1号

風車ウェイクによる発電量や風車寿命への影響を正確に予測することは、ウィンドファームの事業性を評価する上で非常に重要な要素である。当社は九州大学応用力学研究所の内田孝紀准教授および東芝エネルギーシステムズ株式会社と共同研究を実施し、汎用性のある風車ウェイクモデルの開発に取り組んできた。
雄物川風力発電所にて取り組んだ実機風車ウェイク観測では、ドップラーライダーを用いた観測により風速欠損の風速依存性や、商用的に広く使用されているウェイクモデルであるPark modelによる予測値と実測値との関係性を明らかにした。風車運転データ分析からは、観測結果と同様の傾向に加え、乱流強度や風向変動と風速欠損の関係性を確認した。共同研究にて開発したCFDポーラスディスク・ウェイクモデルを用いて雄物川風力発電所の再現計算を行い、風車ハブ高さの風速予測誤差±5%以内を達成した。

キーワード
#風力発電 #風車ウェイク #風況観測 #ドップラーライダー #CFDポーラスディスク・ウェイクモデル
SDGsに貢献する技術
本技術は再生可能エネルギーである風力発電の発電量向上に貢献でき、SDGs目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の達成に貢献します。
文責者
乾真規
共同執筆者
吉田忠相、澁谷光一郎、馬詰佳亮

当社は、水深50~100mに設置する浮体式洋上風力発電施設の低コスト化を図るべく、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託業務「次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究(バージ型)」の一環として、北九州にて3MWバージ型浮体式洋上風力発電施設を設置し、2019年に実証試験を開始した。
本報では、2019年9月23日の台風17号が到達した時の実証試験計測データから把握した荒天時の浮体動揺特性と、実証試験計測データと連成解析結果との比較による、連成解析の有効性検証結果を報告する。検証の結果、波高が高い環境では実証試験計測データと連成解析結果は良く一致することが分かった。ただし、波周期が短い周期帯の浮体動揺では実証試験計測データと連成解析結果に差が発生した。この差が発生した原因についても考察した。

キーワード
#バージ型浮体式洋上風力施設 #実証試験 #流体力解析 #連成解析
SDGsに貢献する技術
本報結果により、浮体式洋上風車の低コスト化技術の研究開発を推進し、SDGs目標 ⑦「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」および目標 ⑬「気候変動に具体的な対策を」への貢献を図る。
文責者
新里英幸
共同執筆者
Ko Matias Adrian Kosasih、鈴木英之(東京大学)、大窪慈生、三谷俊輔

海洋構造物の設計においては、台風のような荒天時にも耐え得る構造強度が求められる。荒天時の海象は乱れており、砕波が発生する。直立壁が砕波から受ける衝撃力(以下、衝撃砕波力)は理論式を用いて評価するが、複雑な形状の海洋構造物に対しては適用できない。そこで、海洋構造物が受ける砕波による衝撃圧力(以下、衝撃砕波圧)の作用位置を、模型実験により明らかにした。
巻き波砕波を構造物へ正確に衝突させるためには事前の造波テストは必要不可欠であるが、数値解析により巻き波砕波の衝突位置を確かめたことで、造波テストは不要となった。さらに、水槽内に傾斜板を配置しない方法で巻き波砕波を発生できたことで、低コストかつ短期間で衝撃砕波圧の測定に成功した。実験結果より、巻き波砕波から受ける衝撃砕波圧の最大値発生位置を推定可能な実験式を導出した。この実験式に水深と砕波の最大到達高さを代入することで、模型実験で求めたい衝撃力が発生する位置に適切に圧力センサーを配置することができるようになった。

キーワード
#台風 #砕波 #ジャケット #粒子法
SDGsに貢献する技術
洋上風力発電など、海洋における再生可能エネルギーの技術開発に貢献できる。
文責者
田村大樹
共同執筆者
新里英幸、木原寛明

環境汚染物質に関する排出抑制の一環として、船舶由来の窒素酸化物(NOx)の規制が施行されており、約80%の除去率が要求される第3次規制(TierⅢ)の適用が一部海域で開始されている。当社は陸用脱硝装置で培った触媒を含むSCR技術をベースに、2010年よりTierⅢ規制を満足する舶用SCRシステムを開発し、実証船での検証試験を経て2017年に初号機を受注した。
この後、顧客からさらにコンパクトなシステムを実用化して欲しいとの要望があり、従来の高圧型SCRシステム(以下、HP-SCR Mk-Ⅰ)を小型化した第2世代高圧型SCR システム(以下、HP-SCR Mk-Ⅱ)を開発し、こちらも2020年より納入を開始した。このHP-SCR Mk-Ⅱは、HP-SCR Mk-Ⅰで必須だった蒸発器を省略したことにより省スペース化を実現しており、顧客から高い評価をいただいている。
本稿ではHP-SCR Mk-Ⅱシステムを実用化する際の課題および検討結果について報告するとともに、HP-SCR Mk-Ⅱシステムを活用したさらなる省スペース化と、艤装の簡素化を実現するために検討を進めている支持構造案について報告する。

キーワード
#IMO #NOx Tier Ⅲ #舶用ディーゼル機関 #2ストローク機関 #SCR #尿素SCR #脱硝 #省スペース #艤装
SDGsに貢献する技術
IMOの定める窒素酸化物(NOx)の第三次規制(TierⅢ)を達成することにより、規制海域での海洋酸性化に貢献する。
文責者
岡崎重樹
共同執筆者
安部慎大郎、森勇人、梶上恵理、児玉渉

国際海運分野では、2018年4月、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)において、「GHG 初期削減戦略」が採択され、2008年を基準年として、①2030年までに単位輸送当たりのCO2排出量を40%以上削減、②2050年までにGHG総排出量50%以上削減、③今世紀中なるべく早期にGHG排出ゼロ、とする目標(Vision)が策定された。
この目標達成のためには、船舶用燃料を重油から低・脱炭素燃料へ転換する必要があり、その候補燃料として、LNG(メタン)、メタノール、アンモニア、水素などがある。
当社は、再生可能エネルギーから生成する水素と産業界から排出する二酸化炭素からメタンを合成するメタネーション技術を開発して事業化を目指している。当社が開発したカーボンリサイクルメタンの製造技術は、ほぼ理論値に近い99%以上の変換効率を実現出来る。また、サプライチェーンの各プロセスにおけるエネルギー収支を試算した結果、カーボンリサイクルメタンがゼロエミッション燃料とみなせ、かつ今後の取組みによりさらに大幅にCO2排出量を低減出来ることが分かった。
今後、このメタネーション技術で製造するカーボンリサイクルメタンを船舶用エンジン燃料として利用することで、カーボンニュートラルに大いに貢献出来ると考える。

キーワード
#海運のGHG削減 #カーボンニュートラル #カーボンリサイクル #メタネーション #DFエンジン
SDGsに貢献する技術
再生可能エネルギーから生成する水素と産業界から排出する二酸化炭素からメタン合成するメタネーション技術の普及により、地球温暖化を抑制する効果が期待出来る。カーボンリサイクルメタンを船舶用エンジン燃料として利用することで海運GHG削減、カーボンニュートラルに貢献出来る。
文責者
村田直宏
共同執筆者
泉屋宏一

当社はAI技術を活用したごみクレーン完全自動化の開発を進め、安定操炉を確保したうえでごみクレーンの自動化率(自動運転時間/稼働時間)を向上させてきた。独自に開発した「ごみピット&ごみクレーン3Dシステム」を核にAIアルゴリズムを実装し、本システムを用いた実証試験を松山市西クリーンセンターで実施した結果、100%に近い自動化率を達成した。さらに、搬入ごみ性状の急激な変動などにより手動介入が必要な施設や、パンデミックや災害などで通常の運転体制が確保できなくなった施設に備え、遠隔地からのごみピット管理とごみクレーン運転が可能な遠隔運用技術を開発した。このシステムをはだのクリーンセンター(秦野市)に構築し、ごみピット&ごみクレーン遠隔運用を実証した結果、当社A.I/TEC(大阪市)からの平日1日間(24時間)の完全連続運用を達成した。

キーワード
#ごみクレーン #AI #遠隔監視 #遠隔運転 #安定操炉 #省力化 #省人化
SDGsに貢献する技術
本稿で紹介した技術により、ごみ焼却発電施設の「さらなる安定操炉の実現、運転管理の省力化、消費電力量の低減」に貢献できることを確認した。
文責者
平林照司
共同執筆者
川端馨、小浦洋平、伊瀬顕史、小貫由樹雄、矢路隼斗、益岡俊勝、木村友哉、平子基(富士ホイスト工業株式会社)、小田浩充(富士ホイスト工業株式会社)

清掃工場における作業員の安全管理、作業効率の向上を目的に、作業員の位置情報を把握するための屋内測位手法について検討した。屋内測位手法には、インフラ導入コストを抑えられる磁気FP(Finger-Printing)を用いたが、清掃工場の環境下では測位対象エリアが大きくなるほど精度が悪化し、実用的な精度が得られなかった。そこで当社は、清掃工場の構造的特徴から特異性のある磁場が形成されることに着目し、磁気トレンドによる測位で得た知見をもとに差分マッチング法を考案した。本法では対象ルートを約93%の精度で測位できることを確認した。また、フロア推定では、階層の判別に気圧差の線形回帰式による検証ならびにLPWA(Low Power Wide Area)のRSSI(Received Signal Strength Indicator)を特徴量とした機械学習手法で階層推定の有効性を確認した。これらの検証により、清掃工場でも通路は磁気差分マッチング、作業空間では相互補完型Wi-Fi・地磁気フィンガープリンティングのハイブリッドな構成にすることにより低コストな高精度屋内測位システムの実用化の目処が立った。

キーワード
#磁気FP #屋内測位 #インドアマッピング #位置情報 #安全管理 #作業効率
SDGsに貢献する技術
清掃工場における磁気FPを用いた屋内測位手法の開発を行った。バイタルセンサ等と併用することで屋内においても作業員の安全管理を実現し、人の健康や安全をより確かなものにすべく開発を続けていく。
文責者
新佑太郎
共同執筆者
川端馨、奥村嶺(奈良先端科学技術大学院大学)、松永拓也(奈良先端科学技術大学院大学)、新井イスマイル(奈良先端科学技術大学院大学)

[ 短報 ]

国土交通省は、i-Constructionとして建設生産システムのICT化を重要施策に掲げており、当社においても、数値シミュレーション技術を中核としたデジタルエンジニアリングを推進している。ドローンによる空撮画像から合成される3次元モデルを数値シミュレーションに適用できれば、広大なインフラを対象としたシミュレーションが比較的容易に行える。ここでは、画像合成によって作成した流体解析モデルを用いて、フラップゲート式可動防波堤の模擬津波に対する減災性能を可視化した事例を報告する。

キーワード
#数値シミュレーション #ドローン #画像合成 #フラップゲート式可動防波堤 #模擬津波計算
SDGsに貢献する技術
シミュレーション技術を用いて製品の実用性や適切性を検証することで設計技術を向上させ、安全で安心な暮らしを守る製品の提供に貢献します。

近年、環境規制の強化や安全運航のニーズの高まりにより、船舶運航管理は高度化している。これらに関する膨大なデータの処理と活用に多くの時間と労力を費やしており、デジタル技術による業務の効率化、省力化やデータの有効活用への対応が急務になっている。この顧客課題に応えるべく、最新のICTを活用した新たなサービスとして、主機関性能解析や船速・燃費などの運航データを可視化しデータ解析業務を支援するクラウド型ウェブアプリケーションサービスHiZAS®VDAを開発し、2022年4月にリリースした。

キーワード
#運航データ #可視化 #クラウド #ウェブアプリケーション
SDGsに貢献する技術
省燃費運航へのサポート機能等を提供することで船舶からのCO2排出削減に寄与していきたい。

2022年4月、神奈川県小田原市の清掃工場にて国内最大規模となるメタネーション実証施設が完成した。その後、5月末から実証運転を開始し、8月に予定どおり試験を終了した。
この実証事業は環境省の委託事業であり、清掃工場の排ガスに含まれる二酸化炭素を分離・回収し、天然ガスの主成分であるメタンを商用規模で製造するというものである。実証では、メタンを製造できること、製造したメタンは燃焼、発電に利用可能であることを確認した。二酸化炭素の転換率としては99%以上であった。

キーワード
#環境省委託事業 #メタネーション #清掃工場 #実証試験 #二酸化炭素回収 #天然ガス代替 #脱炭素 #炭素循環 #2050年カーボンニュートラル

2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする脱炭素社会構築の実現には、これまでの技術の改良や進化だけでは達成が困難であり、大幅な見直しにより新規のアイデアを創出し、技術レベルを飛躍的に成長させなくてはならない。日立造船はこの危機感を京都大学と共有し、新たな挑戦として産学共同講座をスタートした。
本講座では、廃棄物資源循環分野の中でも特に熱化学変換プロセスに着目し既存技術を抜本的に見直して、高効率にエネルギーや資源を回収する革新的な研究開発に取り組み、社会実装を目指して推進している。

キーワード
#脱炭素 #カーボンニュートラル #熱化学変換プロセス #産学共同講座

ごみ処理施設に併設された環境学習施設を案内するロボットを開発した。このロボットは、音声操作機能、説明機能を搭載し、障害物を回避しながら見学者を案内することができる。
2021年12月、京都市南部クリーンセンターのさすてな京都(環境学習施設)で開催された「四足歩行ロボットの工場見学ツアー」において、開発したロボットで案内を行った。ユーモラスに移動する姿のロボットを見て、多くの来場者が楽しんでいたことから、来場者数を増やす効果も期待できる。

SDGsに貢献する技術
ロボットによる来場者の案内は、環境学習施設の新しい見学方法として、より多くの来場者が環境学習に参加する動機付けとなるものであり、SDGsの目標「4.質の高い教育をみんなに」に資するものと確信している。

江戸崎地方衛生土木組合ごみ処理施設建設工事は2022年8月に竣工した。エスエヌ環境テクノロジー株式会社(以下SNT)を代表企業とする「エスエヌ環境・日立造船・コスモ綜合建設特定建設工事共同企業体」による設計・施工でSNT初のBTG(Boiler、Turbine、Generator)付ごみ処理施設となる。
当施設規模は70t/日(35t/24h×2炉)と小規模施設ながら発電能力1,280kWを有し、国内最小クラスのごみ発電施設である。本稿では、試運転期間中の運転状況・性能試験結果等について紹介する。

キーワード
#江戸崎地方衛生土木組合 #小型炉 #ノンファーム型接続 #SNT
SDGsに貢献する技術
SNTは小型炉に発電設備を付帯したごみ処理施設を提案・提供している。従来小型炉では温水回収などによる熱エネルギーの有効利用を主としてきたが、ボイラにより蒸気として回収、発電することでごみの持つエネルギーを最大限に有効利用する。

ボイラのメンテナンスのため、定期的に炉を停止してボイラ水管の清掃を行っている。現在は作業員がボイラ内に入って清掃しているが、効率も悪く、作業環境も劣悪である。この問題を解決するためにボイラ管群清掃装置の開発に着手した。
ボイラ管群清掃装置とは、パンタグラフの下部に付いたノズルから高圧水を噴射して飛灰を取り除いて清掃する装置である。開発の結果、課題であったボイラ管群の清掃効率の向上・作業環境の改善を実現でき、作業員不足の解決が期待できる。

キーワード
#ごみ焼却施設 #ボイラ #高圧水洗浄 #自動制御
SDGsに貢献する技術
近年、全国的な少子高齢化が進み、清掃作業においても「3K」による更なる作業員の不足が顕在化してきている。そこでこのような作業の機械化を行うことにより労働環境の改善や作業効率の向上を通じてSDGs達成に貢献していきたいと考えている。

石油精製、石油化学及び化学プラント向け多管式熱交換器は腐食性の高い流体を取り扱っている場合があり、プラント稼働中に予期せぬ漏洩トラブルの発生事例がある。管板に管が挿入され管端部を溶接する一般的な継手構造に起因して、管にすきま腐食が発生し、漏洩ならびに緊急シャットダウンに及ぶこともある。この事象はプラント生産に多大な影響を与えており、管の腐食損傷を防止する技術が望まれている。その対策としてすきまが発生しない継手構造(インナーボア溶接)を考案した。本稿では今後需要が見込まれる小径管におけるインナーボア溶接を検討し、施工技術を確立したので報告する。

キーワード
#多管式熱交換器 #インナーボア溶接 #アフターサービス
SDGsに貢献する技術
多管式熱交換器は、暮らしや生活・インフラを支えるエネルギーや原材料製造に必要な機器である。各種プラントの多管式熱交換器において、IBWの適用は機器のメンテナンス省力化及び高寿命化に貢献する。

日立造船は、30年以上前から紫外線殺菌機を食品飲料・医薬品の充填ラインに適用するなど、殺菌に関わる事業を展開してきた。この過程で培った殺菌に関する技術的知見、独自の光学解析や気流解析の解析技術を活かし、空気中のウイルスや微生物を除菌する空間除菌機ACSTERIA*を開発・販売した。
ACSTERIAは深紫外線LEDを多数搭載した大空間向けの空間除菌機であり、深紫外線によりウイルス等をスピード除菌できる。日立造船の製品としては珍しい量産商品として2022年1月より新型機を発売し、これまでに多数の販売実績がある。

キーワード
#深紫外線LED #大空間 #簡単設置 #除菌効果 #ウイルス #微生物 #不活化 #感染抑制

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