Hitz技報第82巻第1号

当社は2017~2020年度にかけて、東京二十三区清掃一部事務組合の協力を得て「清掃工場における制御技術の高度化研究開発」を実施し、杉並清掃工場において「ごみバンカ&ごみクレーン3Dシステム」と「燃焼状態予測システム」を試験的に運用した。この結果、「ごみバンカ&ごみクレーン3Dシステム」については、均質化されたごみを所定量確保できた時点でクレーンを休止させることにより、クレーンの総移動距離を8%低減でき、それに伴い消費電力量を52kWh/day削減できた。一方、「燃焼状態予測システム」については、1ヵ月以上の蒸気発生量や炉内温度に関わる安定操炉の継続と、2度の2週間以上の完全自動運転(焼却炉のごみ送り系や燃焼空気系など計25種の操作端に対して手動介入しないこと)を実現し、さらなる安定操炉の実現や運転管理の省力化に貢献できることを確認した。

キーワード
#ごみクレーン #自動燃焼制御 #AI #安定操炉 #燃焼悪化低減 #省力化
SDGsに貢献する技術
ごみ焼却発電施設の「さらなる安定操炉の実現、運転管理の省力化、消費電力量の低減」に貢献できる。
文責者
西原智佳子
共同執筆者
小浦洋平、益岡俊勝、木村友哉、矢路隼斗、南一彦、本山真史、平林照司、古林通孝、近藤守

日立造船は、ごみ焼却プラント向けに無線操作対応のスマート燃焼制御装置を製作・納入した。これにより、ごみ焼却プラントの要となる燃焼制御装置の現場操作性が向上し、機器調達だけでなく、工事・試運転の費用が削減された。
技術面では、タブレットによる場所を選ばない各機器の状態監視・操作およびPLCソフトの内部設定値の確認・変更等を可能とし、機能性の向上を達成した。また、Wi-Fiシステムの通信信頼性やセキュリティ面に最大限に配慮した設計とすることで、安定した通信性と幅広い通信エリアで機能することを確認した。
費用面では、無線化に伴う機器費や工事材料費、更には工事・試運転にかかる人件費の削減により、大幅なコストダウンを達成した。また、無線化によって敷設ケーブルを大幅に削減できたことから、ケーブル断線やそれに伴う漏電等の発生リスクも軽減され、保守費の抑制に寄与するものとなった。

キーワード
#ごみ焼却 #燃焼制御装置 #無線化 #タブレット #Wi-Fi #工期短縮 #コストダウン
SDGsに貢献する技術
燃焼制御装置の無線化に伴い工事材料の低減に繋がる。資源節約を推進できる。
文責者
渡部貴大
共同執筆者
坂口学、江本純一、樋渡和也、安永雅典

近年、水中のアンモニア態窒素濃度を直接測定できるセンサーが実用化されつつあり、下水処理を中心に曝気制御や運転管理への適用を検討する取り組みが行われている。当社でも、し尿処理へのアンモニアセンサー適用を検討しており、これまでに二槽循環型脱窒素処理方式へ導入した事例はあるが、単一槽型高負荷脱窒素処理方式への適用事例は存在しない。
本開発では、し尿処理分野における当社の主力である単一槽型高負荷脱窒素処理方式のIZシステムにアンモニアセンサーを適用することを目的とし、IZ循環ポンプの運転制御をアンモニアセンサーによって行い、従来の酸化還元電位(ORP)による制御と消費電力の比較検討を行った。
検討の結果、アンモニアセンサーによるIZ循環ポンプの制御によって目標水質を維持して処理を継続できることが確認され、有効に機能していると判断した。また、従来のORP制御と比較してIZ循環ポンプ動力が平均16.5%削減される結果が得られた。この結果より、アンモニアセンサーの導入によって施設全体のランニングコスト低減が期待できることが明らかとなった。

キーワード
#し尿処理 #IZシステム #アンモニアセンサー #動力削減
SDGsに貢献する技術
し尿処理設備の稼働によって、水および衛生へのアクセスと持続可能な管理の向上に貢献できる。また、アンモニアセンサーの導入によってエネルギー使用を抑制し、施設運転員の負担軽減によって安全安心な労働環境の促進に寄与できる。
文責者
館野覚俊
共同執筆者
舩石圭介

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)から委託された「次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究」の一環として、日立造船は北九州沖に設置された洋上風力発電用バージ型浮体(以下、浮体)の実証研究を2019年から行っている。本報では、浮体・係留性能に関する、連成解析モデルより求めた計算値と観測値の比較検証結果について報告する。
一般的に、浮体構造物には、波、風および潮流などの自然外力と係留索からの反力がともに外力として作用する。この状態における浮体構造物の運動を求めつつ、それによって生じる係留力の変動を求めることが係留設計の中心的課題である。このため、観測データのうち係留力が設計結果と概ね一致し許容範囲内であることを確認し、設計に用いた設計条件と解析・照査方法の妥当性を検証した。
また、浮体設計について、高波浪時の2020年12月30日に着目し、観測した波、風や潮流のデータを用いて浮体・係留部材の連成解析を行い、浮体運動や係留力に関する計算値と観測値を比較検証した。その結果、浮体に作用する係留力を概ね再現できていることを確認した。本解析では、浮体運動方程式を解く際の粘性減衰項に対して水槽実験結果を基にしたモデル化を行い、その有効性が高いことも確認できた。

キーワード
#浮体式洋上風力発電 #バージ型 #実証研究 #設計検証
SDGsに貢献する技術
浮体式洋上風力発電を活用した再生可能エネルギーの安定的な供給に貢献することができる。
文責者
竹内海智
共同執筆者
新里英幸、田村大樹、大窪慈生、三谷俊輔、原健

海底設置型フラップゲート式可動防波堤は、平常時は海底に倒伏して船舶の通行を確保し、津波や高潮が予測される場合には水面上に浮上させ、航路を締め切ることで背後域への浸水を抑制する。本技術は2011年から3年間の実海域試験を経て、2017年に岩手県が行う津波対策施設に初採用された。詳細設計では特に設備完成後の維持管理性に留意し、現地施工では、困難が予想された水門本体と56本の鋼管杭との現地接合の施工方法の検討に留意した。現地試運転では、実機における扉体の動作特性を確認し、所定の性能を満足することを確認した。本工事は2020年12月に無事に施工を完了した。

キーワード
#フラップゲート #津波・高潮 #防災・減災
SDGsに貢献する技術
自然災害から人の命と財産を守り、持続可能で強靭なまちづくりに貢献する。
文責者
山川善人
共同執筆者
猿橋正晃、白山幸治、仲保京一、森井俊明、吉識竜太、佐山真一

過去の世界情勢の変化、燃料の変遷、原油価格の推移、海運の規制動向等を眺めながら、船の動力が如何にして今日の舶用ディーゼル機関の姿になったのか、及びその将来展望について、二部構成で考察する。前編では、18世紀に発明された往復動蒸気機関が熱効率を向上させ、船の動力として使用され始めた頃から話を始める。19世紀初めの動力船の推進システムはパドル式であったが、19世紀中頃には推進力と堅牢性に優れるプロペラ式に変わった。19世紀終わりには高回転の得られる蒸気タービンが船の速力を飛躍的に向上させると共にプロペラに関する科学も発展した。19世紀後半の石油の流通とディーゼル機関の発明により、今日の主流であり経済性に優れるディーゼル船が20世紀初めに誕生した。産業革命以降、この時点までは経済性の追求が舶用動力の変遷の主たるドライバーだった様である。後編では、ディーゼル機関の大出力化と低燃費化の歴史および近年の環境規制動向について日立造船のディーゼル機関技術を交えて解説し、最後に将来展望を述べる。

キーワード
#蒸気機関 #タービン #プロペラ #パドル式 #外輪船 #燃費 #推進システム #クラーモント #タービニア #セランディア #フルトン #パーソンス
文責者
藤林孝博
共同執筆者
滝谷俊夫、馬場真二

過去の世界情勢の変化、燃料の変遷、原油価格の推移、海運の規制動向等を眺めながら、船の動力が如何にして今日の舶用ディーゼル機関の姿になったのか、及びその将来展望について、二部構成で考察する。前編では蒸気船からディーゼル船への変遷を述べた。後編では、20世紀初めに登場した舶用ディーゼルエンジンがどの様に進化して、大出力、ロングストローク、低回転、低燃費を特徴とする今日のデザインに到達したのかを見ていく。これに関連して日立造船のディーゼルエンジン技術の歴史についても併せて紹介する。前編と同様に、20世紀も経済性の追求がドライバーとなり、船舶設計とエンジン設計が相互に発展した。しかし、21世紀に入ると環境保護が最優先されるようになった。約1世紀に亘って安定を極めた油焚きディーゼルをベースとする船舶推進システムは、地球温暖化防止が世界の最優先課題の一つとなった今日、前編で見た様な大変革が求められる。

キーワード
#ロングストローク #低回転 #過給#平均有効圧 #出力率 #熱効率 #燃費 #ツインバンク #SCR #CO2 #正味ゼロ #ネットゼロ
SDGsに貢献する技術
舶用ディーゼルエンジンは経済性と低燃費を追求した結果の結晶である。熱効率は50%を超え、内燃機関単体では最高である。世界の貿易量の約9割は海上輸送である。近年ではSCRを用いたNOx排出の削減や低炭素燃料への転換にも取り組んでいる。当社は舶用ディーゼルエンジンの製造・販売・研究開発を通じて、低コストで環境負荷の低い物流の提供に貢献している。
文責者
藤林孝博
共同執筆者
滝谷俊夫、馬場真二

[ 短報 ]

国内のごみ焼却施設において、環境省の「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和元年度)」によると、発電設備を有するごみ焼却施設数は384施設(全体の36.0%)であることが報告されている。一方で、発電設備のない施設において既存施設の改造による発電設備化を進めようとする自治体は、改造コストや、発電化による運転管理の懸念により僅少である。
これに対し当社は、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与するため、既存のごみ焼却施設への発電設備導入に取り組んでいる。本稿では、コストの低減、運転管理の容易性を特長とするパネルボイラ®について紹介する。

キーワード
#ごみ焼却発電施設 #カーボンニュートラル #ボイラ炉 #基幹的設備改良
SDGsに貢献する技術
発電設備を有するごみ焼却施設数は全体の36.0%であることから、基幹的設備改良事業への支援を活用して発電設備化することで、従来施設より大幅にエネルギー回収を増加させることが可能である。再生可能エネルギーを利用することでCO2の排出量を低減し、2050年カーボンニュートラルに貢献するものと期待する。

泥土圧シールド工法では、チャンバ内で掘削土砂を作泥土材と混練し、適切な性状の泥土に変換する。この作業は、シールド掘進機前面に掛かる土圧を維持して慎重に行う必要があり、工事の安全性および効率に大きく影響する。そのため、チャンバ内の高拘束圧下における土砂挙動を把握することは重要である。本技術は、粉粒体解析手法である個別要素法により、チャンバ内土砂挙動を解析するものである。これにより、従来の経験則に基づく検討に加え、解析による混練性能の検証が可能となった。

キーワード
#シールド掘進機 #個別要素法 #土砂 #粉粒体
SDGsに貢献する技術
シールド掘進機が作る地下空間は、快適な暮らしを支える社会インフラであり、近年増加傾向にある内水氾濫への対策などにも利用される。土砂挙動の解明によって、より安全かつ効率的な地下空間形成に貢献する。

鋼製煙突の様な大型の円筒構造物は、風がある特定の条件で流れる場合に渦励振と呼ばれる振動(共振)現象を起こすことが知られている。当社では鋼製煙突の渦励振対策の一つとしてこれまで煙突本体から吊下げる形式の制振装置を納入してきた。今回、かねてより多くのご要望を頂いてきたユニット型制振装置を開発した。これにより当社の煙突向け制振対策のメニューが拡大した。

キーワード
#高層煙突 #塔状構造物 #制振装 #ユニット型TMD
SDGsに貢献する技術
本制振装置の開発により、当社ではSDGsに示す13の目標の内「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献している。

面蒸発源はドライコーティングの中で古くから知られた真空蒸着法の原理を採用しつつ、省スペースで高い膜厚均一性と材料利用効率を両立させながら有機蒸着材料を成膜できる蒸発源である。基板・蒸発源ともに静止状態で成膜する本来の使用方法に加え、ロールtoロール(RtoR)やインライン装置に代表される基板移動成膜方式に応用し、有機EL製造装置や防汚膜成膜装置への適用を可能にした。これら成果が認められ、日本真空工業会より真空装置大賞を受賞した。

キーワード
#面蒸発源 #真空蒸着 #膜厚均一性 #材料利用効率 #有機EL #防汚膜

日立造船は、2019年にC-Life社製(代理店:株式会社コタック)リン酸鉄リチウムイオンバッテリーを使用した充電・放電・過電圧・過放電・温度などを監視し、効率的で安全に使用できるBMU(Battery Management Unit)を開発した。
当社と株式会社コタック、日栄インテック株式会社、株式会社ジェイアール貨物・南関東ロジスティクスの4社にて、このバッテリーを使用した鮮度保持装置付き冷蔵コンテナを製造し、2021年2月に15式を株式会社ジェイアール貨物・南関東ロジスティクスに納入した。現在、営業運用を行っている。
また、このバッテリーを使用したゴルフカート220式を当社と株式会社コタック、コタックグリーンエナジー株式会社の3社にて製造した。2021年4月から太平洋クラブ軽井沢リゾートで運用されている。

キーワード
#BMU(Battery Management Unit) #リン酸鉄リチウムイオンバッテリー #脱炭素化 #カーボンニュートラル #省電力

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