Hitz技報第79巻第1号

当社はごみ焼却施設を本社内の遠隔監視センター(2018年10月に先端情報技術センター:A.I/TECとしてリニューアル)で遠隔監視や運営管理を行うため、remon®を運用している。
remonシステムをビッグデータや非構造化データにも対応させ、ビッグデータ解析やAIへの利用拡大を図ることを目的に、大型放射光施設SPring-8の運用機関である(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)が開発した制御フレームワークのMADOCAⅡをデータベースに採用し、従来のremonシステムでは実現できなかったパフォーマンス、スケーラビリティ、コスト効率、柔軟性、および可用性に優れたNew remonシステムを開発した。
本稿では、New remonシステムの概要とMADOCAⅡのremonシステムへの応用方法について述べる。

文責者
川端 馨
共同執筆者
水谷 光浩、宮元 耕治、伊崎 嘉洋、植田 倉六

当社では、AI技術を活用したごみ焼却発電施設の自動燃焼制御(ACC)の開発に取り組んでいる。その一環として、数分から数十分先の燃焼状態を予測する予測モデルを開発し、モデルの予測結果に基づいてACCの制御パラメータを調整することで、燃焼の悪化を回避することに成功した。
ボイラ発生蒸気量を予測するモデルをACCに導入した実証運転では、導入後の蒸気量の変動係数は1.5%から0.9%へ改善され、運転員による蒸気量安定化のための手動操作頻度も46%削減された。また、別施設で実施した排ガス中CO濃度の上昇を予測するモデルの実証運転では、空気比1.2程度の低空気比燃焼であってもCO濃度を24%削減でき、さらにCO濃度抑制のための手動操作頻度を67%削減できることを確認した。

文責者
山瀬 康平
共同執筆者
阪口 央紗、古林 通孝、佐藤 拓朗、片山 武

当社と株式会社ニチゾウテックおよび阪神高速技術株式会社は、路面性状測定車「ドクターパト」で撮影した大量の画像に対して、人工知能技術の一種であるFCM識別器を適用し、自動的に路面のひび割れを検出する技術を開発した。従来、阪神高速グループでのひび割れ検出作業は人間の目視に頼っていたため、作業効率が良くなく、判断結果に個人差が生じるといった問題があった。今回開発した技術を組み入れたひび割れ検出作業支援ツールを利用することで、ひび割れ検出作業に要する時間を大幅に削減可能であることを確認した。また、補修設計や補修対象路線の優先度を判断する要素の一つであるひび割れ率を完全自動で算出するシステムの開発にも取り組んでいる。

文責者
三宅 寿英
共同執筆者
松下 裕明、清水 晋作、北嶋 秀昭、和田 貴裕
株式会社ニチゾウテック 畑中 章秀、堅多 達也、服部 洋、中山 正純
食品工場における品質管理の遠隔支援システムの図

当社では、食品工場を対象として、インターネット経由で遠隔地より業務支援が可能な遠隔支援システムを開発した。このシステムでは、AI技術の一種である畳み込みニューラルネットワークによる画像の物体認識・検出技術を用いて、商品画像をあらかじめ学習させておくことで、従来、人が目視確認していた商品の内容物(形態・用途)と商品に貼付されているラベルの自動判別が可能となった。3ヶ月間の実証実験の結果、目視によるチェック件数を90%以上削減できることを確認した。さらに、定期的に再学習を行うことで、商品の変化にも対応でき、長期間にわたって運用することも可能である。

文責者
井岡 良太
共同執筆者
三宅 寿英、前田 誠一、畑 圭祐、森本 晃章、杉本 淳、遠藤 栄進

当社では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の非常に高い発電端効率と燃料多様性に着目し、業務・産業用20kW級システムの開発を進めている。既に実用化が進み、信頼性の高い家庭用0.8kW級のセルスタックを導入し、これを複数積載することでシステムアップを図る。これまでに商品機と同規模の20kW級実証装置を製作、社内工場における性能検証を経て、現在ユーザーサイトにおける実負荷環境下での耐久性確認試験を実施中である。ここで、従来の熱機関(タービン、エンジン)を上回るAC送電端効率50%以上と高い耐久性を確認した。本稿では、20kW級システムの概要と実証試験状況および今後の展開に関して報告する。

文責者
高木 義信
共同執筆者
酒井 良典、岡崎 泰英、伊妻 恭平、八木 厚太郎、川見 真人、橋本 大祐、若宮 和輝、小川 貴史
石炭焚き火力発電所向け水銀酸化触媒の図

石炭焚き火力発電所等の水銀排出規制に対応すべく、高水銀酸化能かつ低SO2酸化能を有する脱硝触媒を開発した。脱硝触媒は酸化能も有しているため、水銀酸化能を向上させようとすると、排ガス中に含まれるSO2からSO3への酸化反応も促進される。SO3は脱硝で使用する還元剤のNH3と反応し、その生成物が触媒の劣化や触媒層の後流機器の腐食や閉塞を招く恐れがある。そこで、当社製品であるV/TiO2系脱硝触媒を3層構造に改良し、脱硝・水銀酸化・SO2酸化の反応速度の差を利用して反応を制御した。その結果、V/TiO2系脱硝触媒と比較して、脱硝性能は維持しつつ、水銀酸化能を約3倍向上させ、SO2酸化能を1/10倍まで大幅に低減させることができた。また、SOx耐性や熱耐性、摩耗強度、アルカリ被毒耐性は実機で実績のあるV/TiO2系脱硝触媒と同等以上であり、実機に適用可能な触媒を開発できた。

文責者
西 亜美
共同執筆者
伊藤 勉、庄野 恵美、日数谷 進、日野 なおえ

浄水場では浄水工程から発生する濁質等を含む排水処理工程があり、発生する上水スラッジを濃縮処理することで脱水や乾燥が効率的に行えることが知られている。天日乾燥床やフィルタープレスのニーズに沿うものとして、上水スラッジを効率的に濃縮できる装置を開発した。原水の種類や性状、浄水処理プロセスの違いにより、発生する上水スラッジには違いがある。そこで、水源、水質の異なる浄水場において実施した実液試験をもとに装置の最適運転方法と維持管理性の向上を追及した。ここでは、3年間にわたる実液試験において得られた知見を報告する。

文責者
岩井 俊憲
共同執筆者
田中 将一

当社では、ポストリチウムイオン電池として次世代自動車などへの適用が期待されている全固体リチウムイオン電池の開発を進めている。当社グループの機械製造技術を活用した独自の乾式製造技術を開発し、従来は充放電時に必要であった機械的加圧を用いることなく、全固体電池を動作させることに成功した。この電池は、固体電解質が難燃性であるため、高い安全性を保持しており、また、−40~100℃という広い動作温度範囲を有している。電解液系の現行リチウムイオン電池では適用が難しい環境下でも動作可能であり、新しい分野・市場への適用が期待できる。

文責者
西浦 崇介
共同執筆者
髙野 靖、岡本 健児、岡本 英丈、砂山 和之

当社では、センサー、配線、放熱材料など各種用途に適用できるカーボンナノチューブ(CNT)配向フィルム、ワイヤー(CNTワイヤー)および熱界面材料(CNT-TIM)を開発した。CNT配向フィルムおよびCNTワイヤーは、軽量高強度かつ柔軟な特徴を有する。特にCNTワイヤーは比強度が0.8GPa/(g/cm3)とピアノ線の約2倍である。また配向CNTの配向方向の熱伝導を利用したCNT-TIMの熱伝導率は20~25W/(m K)であり、熱衝撃試験を行っても、熱伝導グリースのように熱抵抗の悪化はなく、高い耐久性を確認した。

文責者
藤本 典史
共同執筆者
円山 拓行、川上 陽子、山下 智也

有機EL照明を構成する有機層・金属電極層の成膜は、一般に真空蒸着法が用いられている。有機EL照明はLED照明との差別化から、基板のフレキシブル化および生産コスト低減の要求が強まっている。従来、当社はガラス基板の枚葉生産方式に対しては有機層成膜に面蒸発源を、金属電極層成膜に対しては電子ビーム蒸発源を搭載したクラスター方式を提案していたが、基板のフレキシブル化や高生産性のニーズを満たす方法の一つとして、新たにRoll to Roll(RTR)方式での基材ベーキング、プラズマ洗浄、有機層成膜、金属層成膜のプロセスを連続的に処理できる真空一貫成膜装置を開発した。本報告では、RTRでの有機EL照明製造装置の特長について紹介する。

文責者
藤本 英志
共同執筆者
千住 直輝、清水 祐輔、中静 勇太、原田 寿典、甲斐 圭一、松本 祐司

当社は光の偏光状態をイメージングすることで、フィルムなどの透明材料の性状をモニタリングできる装置を開発した。偏光イメージングを行うため、装置に用いている特殊な光学素子は、超短パルスレーザをガラス内部に集光照射することにより形成されるナノ周期構造を応用したものである。
開発した装置をフィルム製造ラインに組み込むことで、リアルタイムでフィルムの位相差分布の計測が可能となり、製造の条件出しの効率化が図れることを確認している。当社精密機械センター内にデモ装置を設置し、フィルム製造テストや各種サンプルの計測などに活用している。

文責者
大渕 隆文
共同執筆者
山田 雄也、岡本 拓也、福田 直晃、小﨑 修司、鈴川 正紘

当社では、ロボットMAG溶接中の電流・電圧波形から、溶接欠陥(ブローホール)を検知するシステムを開発した。厚板溶接ではパルスMAG溶接を用いたロボットによる積層溶接が一般に広く用いられている。本システムでは、パルスMAG溶接中の電流・電圧波形を高速で計測・処理し、得られる度数分布図を6つの領域に分割し、算出した各領域で特徴量を閾値と比較する。閾値を超過した特徴量によって、ブローホールの有無を判定し、有りと判定した場合にロボットを停止する。このシステムにより、95%以上の確率でブローホールを検知することができる。開発した本欠陥検知システムを社内工場の2基の厚板ロボット溶接システムに導入した。

文責者
佐々木 要輔
共同執筆者
日置 幸男、戴 英達、中谷 光良

近年、重交通路線を中心に道路橋用鋼床版の疲労き裂が顕在化している。このような中、当社は阪神高速道路株式会社と共同で、交通規制を伴わず床版下面から施工が完結する補強工法(Uリブ切断工法、Uリブ内面モルタル充填工法)の現場施工技術を開発した。本稿では各開発項目の内、Uリブ切断工法における切断および仕上げの効率的な施工法の開発について報告する。本開発により、現場で要求される施工品質を確保した上で、従来に比べ切断・仕上げ時間を7割、工法全体の施工時間を2割低減できた。
当社では、橋梁の建設から保全まで一貫して対応可能な橋梁トータルソリューションサービスを展開しており、本技術もこれらの取り組みの一つとして今後活用を進める予定である。

文責者
松下 裕明
共同執筆者
岡村 敬、須藤 丈、松永 耕介、岡田 潤、森田 寛之
株式会社ニチゾウテック 畑中 章秀

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